『国史教科書』を読んで
(令和2年)
針原 崇志
昨年、ネットで『〔復刻版〕初等科国史』を購入しました。
昭和18年に発行された「我が国最後の国史教科書」の復刻版ですが
仮名遣いはいまの仮名遣いに改められています。
「本屋では売ってないだろうな」と思いわざわざネットで買ったのですが
他日本屋に行ったら、普通に平積みで売られていました(笑)
昨日もまだ平積みで売られていたので、かなり売れているんでしょうね。
もちろん内容に興味があって買ったのですが、内容もさることながら
特に印象的だったのは、その書かれている文章の美しさです。
たとえば、教科書の書き出しは、次のとおりです。
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大内山の松のみどりは、大御代(おおみよ)の御栄え(みさかえ)をことほぎ、
五十鈴川の清らかな流れは、日本の古い姿をそのままに伝えています。
遠い遠い神代(かみよ)の昔、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)・伊弉冉尊(いざなみのみこと)は、
山川の眺めも美しい八つの島をお生みになりました。これを大八洲(おおやしま)といいます。
島々は、黒潮たぎる大海原に、浮城のように並んでいました。
つづいて多くの神々をお生みになりました。
最後に、天照大神が、天下(あめした)の君としてお生まれになり、
日本の国の基(もとい)をおさだめになりました。
・・・・・
そして、神武天皇が橿原宮をひらかれ、初代天皇に即位された節は
次のような文章で締めくくられています。
・・・・・
今、畝傍山(うねびやま)の陵(みささぎ)を拝し、橿原神宮にお参りして、
天皇の大御業(おおみわざ)をはるかにおしのび申し上げますと、
松風の音さえ、二千六百年の昔を物語るようで、
日本に生まれたよろこびを、ひしひしと感じるのであります。
・・・・・
個人的な感想としては、読むだけで心が洗われるような心地がしました。
当時の教科書執筆者の教養の高さをうかがい知ることができます。
いまの教科書執筆者(特に左翼系)に、果たして
こういった美しい文章を書けるだけの教養があるのでしょうかね?
教養もさることながら
教科書執筆者の祖国日本に対する切なる思い、そして
それを子供たちに伝えようとする真摯な思いが
日本の来歴を物語る国史教科書の文章をより美しく彩っているのでしょうね。
僭越ながら、拙著『歴史教科書を斬る』のはしがきの冒頭で
私は次のような持論を記しました。
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歴史教科書とは、日本の未来を担う子供たちが、
日本とはこれまでどのような歴史を歩んできた国なのかを学ぶために読むものである。
であればその内容は、日本がこれまでに歩んできた輝かしい来歴を紹介して、
日本という祖国に対する誇りと愛情を育み、
日本に生まれ育った喜びや、日本の未来を担うことへの希望を培うことを旨とすべきであろう。
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日本が民主国家、すなわち
国民が国のありようを決める制度を採る国であればこそ
その大前提として、国民一人ひとりが国を大切に思う気持ちを持つ必要があり
「国民」を育てる歴史教科書もまた、そうした趣旨に則って記されるべきだと考えています。
そういった観点からすれば
受験対策に必要な項目を効率よく詰め込んだだけの
現在の「クイズ王養成教科書」などより
当時の教科書のほうが、よほど民主制の趣旨に適った教科書といえるのかもしれません。
その教科書の復刻版がそのように売れている、つまり
多くの人々が関心を寄せているのは、喜ばしい限りです。
こういった書籍を通じて、より多くの方々が
わが国の「国史」を認識してくれることを切に願います。