萬世一系は日本の価値なり
(平成18年)
獨協大学名誉教授、昭和史研究所代表、大東亜青年塾教授
中村 粲
駄目な日本になってしまったが、まだ幾らかの救ひが残ってゐるとすれば、それは皇室があり、上に天皇を戴くからである。これこそ日本が日本であり得る究極の立脚点であり、日本民族最後の誇りであらうと思ふ。
神武天皇以来、今上陛下に至るまで皇統の血脈は萬世一系と謂はれる。天皇を至尊と申し上げるのはこの理由に依る。然るにやがて愛子様が女帝として登極されると、皇統の血脈が断たれることになると云ふ。
仮に女帝であっても、皇室の御血筋は継承されるものと小生は単純に考へてゐたのであるが、遺伝子学的にはさうではないと云ふ。神武天皇以来連綿と受け継がれてきたのは男系天皇のY染色体であり、女帝が立たれるとその継承が断絶するのであるといった生物学的事実には、羞づかしながら無知であった。萬世一系は女系を通しては保ち得ぬことを、迂闊にも知らなかった。近頃、漸く諸種の論考を読んで、萬世一系の科学的根拠を知り得た次第である。
先般「皇室典範に関する有識者会議」が女帝容認の結論を出した。その余りにも拙速に過ぎる答申に対して、多くの研究者や一般国民から「女帝」「女系」反対の声が上がってゐる。保守系研究者は大半が有識者会議の結論に反対のやうである。
尤もこれに対して、保守系の国史学者、神道研究者の中に少数ながら「女帝」「女系」容認論に賛同する人々もゐる。その人達には、夫々の専門的立場からする論拠があるに違ひないが、這般の問題について十分なる専門的知識を持たぬ筆者には、この両論の優劣を比較論評する資格はない。
ただ俄か仕込みのものではあるが、先述のY染色体説の科学的根拠に立って、萬世一系は男系の天皇によってこそ断絶することなく継承されるものと考へるに至ってゐる。
萬世一系の天皇は他に比類なく、世界に冠絶する日本の伝統文化であり価値である。それは日本民族の精神的支柱であったと言へるだらうし、また永き未来に亙ってさうであらねばならない。斯かる重大事項に関はる議論はゆめ拙速であってはならず、いやが上にも慎重を期さねばならぬ。