感激 ― 兄の愛機発見
(平成17年)

中村 三郎

60年の時空を経て、兄純一の愛機の残骸が発見された。もししゃべるが1m離れていたら、若しその深さが3mだったら永遠に眠ったままであったろう。
幸運にも発掘されたことの神の恵みの深さに畏れ戦くのみである。
国道工事事務所・交野警察署・教育委員会・交野市長はじめ御担当・地域住民の方々・そして報道関係諸氏の史実の掌握と事態の解明にかけたあふれる熱意と真心に、唯々頭を垂れるのである。幾百万の大東亜戦争戦没者の中でもこんな幸運に恵まれた事例があったであろうか。
兄は誠に几帳面な堅物で飛行訓練のため比島にいた頃、家族に毎日のように便りが届いていた。心くばりの行き届いた達筆の巻紙や、「勇気凛々進撃敢闘」の色紙は、軍刀や操縦手簿といっしょに黎明館に永久保存されている。
遠い遠い昔の事ながら二つ違いの兄から毎晩叱責され、勉強にしごかれたお蔭で兄と同じ中学に合格。校門をくぐった時の兄の満面の笑みが大きく膨らんできて旨迫る思いである。
激烈を極めた戦のさなか、極限に立って苦悶呻吟しながら、ひたすら祖国を護る為、眦を決して天翔けり死地に突入した学鷲。絶望の戦局と閉された命運を熟知しながら尚、一切の抗弁もなく天空を覆う敵大編隊群に果敢に突っ込んでいった壮絶の心情を今静かに思い巡らすのである。

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